監修:川崎医科大学 分子遺伝医学 大友孝信
ライソゾーム病の中には、糖蛋白質が溜まるムコ多糖症や、糖脂質が溜まるリピドーシスがありますが、ムコリピドーシスは糖蛋白質も糖脂質も溜まり、これら2つの病気の両方の症状を併せ持つことからこの名前がつけられました。ムコリピドーシスにはI型、II型、III型、IV型があります。ムコリピドーシスI型、II型、III型の症状はいずれも骨の変形や神経症状が次第に進行し、ムコ多糖症とよく似ています。
ムコリピドーシスI型は、シアル酸という糖を切断するシアリダーゼ(ノイラミニダーゼ、NEU1遺伝子)という酵素が欠損するために糖蛋白質の分解が進まず、糖鎖や糖蛋白質が蓄積する病気です。ムコリピドーシスI型は、現在シアリドーシスに分類されており、ムコリピドーシスI型という呼び方はあまりされていません。重症型のシアリドーシスは生まれた時や乳児期からムコ多糖症に似た顔貌や骨の変形と、発達の遅れなどの神経症状を示します。一方で、10代以降に視力低下や歩行障害などで発症する軽症型もあります。
ムコリピドーシスII型とIII型の原因は同じリン酸転移酵素の欠損であることが分かっています。ただし、この酵素の部品を作る遺伝子が2種類あるため、原因遺伝子はGNPTABとGNPTGの2つが存在しています。リン酸転移酵素は、ライソゾーム酵素をライソゾームまで輸送するために重要な働きをしています。従って、このリン酸転移酵素の働きが低下すると、様々なライソゾーム酵素がライソゾームまで運ばれなくなってしまい、細胞の外に漏れ出します。ムコリピドーシスII型やIII型の皮膚線維芽細胞を観察すると、ライソゾーム内に様々な未分解の糖蛋白質や糖脂質が溜まって粒々状に見えます。粒々(封入体、inclusion bodyと呼ばれる)が有る細胞の病気ということでI-cell(アイセル)病という別名でも呼ばれます。ムコリピドーシスII型とIII型は、欠損しているリン酸転移酵素が同じですが、II型は重症型、III型は軽症型として分けられています。ムコリピドーシスII型は、特徴的な顔つき、骨の変形、関節の拘縮、肝腫大など、ムコ多糖症のハーラー病にとてもよく似ていますが、症状の出現は早く、生まれた時や生後半年頃にはすでに症状が現れます。歯ぐきが肥厚するのは特徴的と言われています。骨の変形も強くみられ、臍ヘルニア、鼠径ヘルニア、角膜の混濁、呼吸器感染症や中耳炎を繰り返すのもムコ多糖症と似ています。リピドーシスの神経症状として発達の遅れも見られます。一方で、ムコリピドーシスIII型はやや遅れて2~4歳頃に、骨の変形、や関節拘縮などが見られ、徐々に進行していきますがII型よりは症状は軽度です。成人に達し、施設などで働かれている方もいます。
ムコリピドーシスIV型はMCOLN1という遺伝子の変異が原因で発症する、ユダヤ人家系などで多く見られる非常に希な疾患です。MCOLN1タンパク質はライソゾームの膜に存在してイオンを出し入れする扉の役割をしており、この扉の役割が低下するとライソゾームへの物質の輸送やライソゾームの機能が低下すると考えられています。電子顕微鏡などで細胞の中のライソゾームを観察すると、他のムコリピドーシスと同様な様々な蓄積物質が溜まっていたためムコリピドーシスに分類されました。症状は角膜の混濁や網膜変性といった眼症状や進行する神経症状が特徴的ですが、骨格の異常、特徴的な顔貌、肝脾腫などのムコ多糖症に多くある症状は認めません。
いずれのムコリピドーシスについても、病気を完治させる治療法はありませんが、症状を緩和する治療法によって予後は改善しています。また、遺伝子治療などの研究開発も現在行われています。
ムコ多糖症|型ガイドライン
http://www.japan-Isd-mhlw.jp/doc/mps1 practice-guideline 2019.pdf
ムコ多糖症II型ガイドライン
http://isimd.net/pdf/MPS2019.pdf
難病情報センター ライソゾーム病とは
https://www.nanbyou.or.jp/entry/4063
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